“Global Leader Story“ vol.9 廣綱晶子

欧州留学/欧州MBA/就職・キャリア支援のビジネスパラダイム代表・創立者

 日本で生まれ育ちながらも、グローバルな仕事環境で大活躍するリーダーの軌跡とマインドを発信するグローバルリーダー・ストーリー。

 9回目のグローバルリーダーは、欧州のMBAを強みとする留学サポート・人材紹介・企業研修など行うビジネスパラダイム代表・創立者である廣綱晶子氏。ソニー株式会社半導体部門勤務を経て、米国系教育関連企業でマネージメントに携わる。1995年、渡英。1998年英国サウザンプトン大学にてMBAを取得後、ロンドンでMBAホルダー、エグゼクティブを対象とした採用活動にかかわる。 2000年にビジネスパラダイムを立ち上げて以来、欧州のMBAを日本に広め、日欧間のコミュニケーターの役割を担ってきた廣綱氏にMBAを取得してから起業への道のりと、これまでの事業展開を振り返ってもらった。



 小さい時から親の転勤で日本国内の学校を転々とする生活を送っていた。色々な土地での暮らしを経験しながら、どの場所にも地元に根付いた文化があると実感。好奇心旺盛な少女時代を過ごした。新卒でソニー株式会社に就職したものの社内結婚を機に2年で退社し、米系教育関連企業に転職した。新しい職場ではターゲット設定、P/L管理などを任され、短い期間でオフィスマネージャーに昇格。人材育成までの幅広い経験をする中で「自分にはビジネスを俯瞰で見られる訓練が必要だ」と感じるようになり、MBAを意識しはじめる。ところが夫のイギリス転勤が決まり退職。駐在員の家族として1995年に渡英することになった。

力技で終えたファウンデーションコース、
ギリギリで滑り込んだMBA、そこで得たもの

 夫と共通の趣味がヨットだったので、競技ヨットで知られたサウザンプトンで暮らす。ヨット、乗馬、ゴルフを日常で楽しむという恵まれた毎日を送りながら、MBAのファウンデーションコースに1年間在籍した。今のように機械翻訳もない時代、参考文献は全文翻訳・丸暗記するような心意気で予習復習に励み、翌年は念願のMBAコースに進学。

 初日の授業で先生から「ビジネスに正解は無く、ビジネススクールとしては、君たちに水や肥料はあげるけど、最後に花を咲かせるのは君たち自身だ」と言われ、その通りだと共感したことを思い出す。

 最初に提出した論文は「君の意見はどこにあるのか?これを受諾すると合格点以下になるから受諾したくない」という理由で返却された。先生は「自分の意見をどう立証するのか。スコアとはそれに対しての評価」と言う。ビジネスに正解はないのだから、優は70+、良は60+、合格は50以上。会計計算など正解がある試験以外は100点満点というのはないという。もっと早くからこういう教育を受けたかったし、こういう教育が今の日本人にとって必要なのではないかと強く思った。

 また、日本の教育で身についている起承転結で議論を展開するため、結論が分かりにくく、その上、英語力が貧弱なため、うまく説明ができないことも頻繁にあった。ビジネス環境の違いから常識が異なり、困難にぶつかる度に友達に助けられた。ある友人は私が大変な苦労をしていることに気がついており、各ケーススタディを日本での仕事経験や知っている日本の企業に当てはめて考えるように進言してくれた。「Aの場合、ソニーであれば何をするか?」——このように各ケースを日本の企業と比較する方法で、自分の意見を述べ、その意見の背景、日本ビジネスの体質や企業文化などを説明することで、理解してもらえるようになった。その甲斐あって、経営戦略の授業では高得点をマーク。時に過去問を分けてもらい、飲み会で情報を教えてもらい——仲間に助けられ卒業できたMBA生活だった。

 

もっと欧州MBAの魅力を日本人に届けたい
その思いを持ち続け起業

 ビジネススクール卒業後、一度ロンドンに拠点を置くリクルートメント会社に就職して日本人MBAホルダーの就職活動に関わる機会を得た。当時の日本では、アメリカのMBAのほうが圧倒的に知名度が高く、欧州MBAはほとんど知られていない。欧州にある大半のMBAでは1年でコースを修了でき、「この魅力をもっと多くの人に知ってほしい」という思いだけで、どのような学校があるのか、どのようなプログラムに沿って学ぶのか、学生生活や住環境はどうなっているかなど、自費で欧州全てのビジネススクールを訪問し、スクールの担当者や学生から生の情報を取得し、現地でしか知り得ない情報をウェブサイトBusiness-Paradigm.comで発信。同時に、ビジネススクールに入学したい方のサポートを無償で始めた。ある日、出願の伴走をしていた方に「無料ではこれ以上頼めない、ぜひとも有料でやってほしい」と言われたのを契機に個人事業主として事業をスタート。翌年2001年、同じ志をもつ堀田と共にビジネスパラダイムを創立し、本格的にビジネスをスタートすることとなる。

ロンドンマラソンRotary Clubファンドレイジングで9回出場完走(起業してお金がないので趣味はあきらめてひたすら走る)

 あれから22年。イギリス、スペイン、フランスをはじめとする欧州の主要ビジネススクールの中は数多くの日本人生徒を抱えるところもあり、日本人留学生の存在感は高まっている。また企業に対して欧州ビジネススクールや大学の素晴らしさを紹介し、卒業生の人材紹介も行ってきたが、企業が欧州留学生を評価して積極的に採用するようになったことで、卒業生パイプラインも強いものになってきた。かつて日本人はほぼゼロだったスクールが多く、就活情報やイベントが皆無に近かったことを考えると感慨深く、ビジネスパラダイムが積極的に関わってきた結果だという自負がある。


女性だからと気負わず自然体で仕事に向き合う
MBAでの経験は人生の宝物

 海外で女性が起業するというのは大変なことだったのでは?と苦労話を想定した質問をされるが、自分は「海外起業」や「女性起業」を特別なことだと感じていない。自然体のままここまで頑張れた理由はいくつかあると思う。

 一つ目はMBAでの経験。また、2008年に弊社がスペインのビジネススクールであるIEのレップになったのをきっかけにIEのAMP(Advanced Management Program)コースに参加した。1998年と2008年、2度の海外大学院への留学経験を通して、質はもちろんのこと、スピードと量をもってアウトプットをする優秀な人たちに囲まれる素晴らしい機会に恵まれた。以来、世界中に散らばる彼らとのコネクションを介して、欲しい情報やリソースに簡単にリーチすることができる。しかもその情報はすでに彼らのふるいにかけられていて、親切な説明や紹介までついている。総合的にみて海外大学院、特にMBAコースはこれからビジネスを深めたい人にはおすすめの場所。プロがつくったMBAというボートに乗りこみ、最も効率的なルートに舵を切り、世界中から集まる凄腕クルーたちと漕ぎ出せば、その航海の中で学び、経験や仲間たちは人生の宝になる。自分自身でゼロから準備をして一人で航海するのは難しいが、MBAであれば、仲間と助け合い効率もよい。

IE AMP同期友人宅を訪ねる(場所:ヨルダン)

 二つ目は、レイドバックな性格からか、話下手で大抵の場合、聞き役にまわることが多かった。結果として、ニュートラルな立場でネットワークやコミュニティの中を泳いでくることができた。これは小さな時、転校ばかりしていた経験が影響しているように感じる。初めての環境ではまず周りをよく見て、よく聞くという観察力が重要。そして、どのグループが自分に合いそうか判断して、仲間にいれてもらう。出会いは運ではなく、自分で作るものだと考えている。

 最後にひとえに人のサポート。家族、友人、ビジネスや社会活動におけるメンター、先輩、パートナー、同僚、周りの人たちからたくさんのサポートを得てきた。これは偶然に人に恵まれただけ、ということではなく、意識して築き上げた財産だと思っている。

 現在はロータリークラブ 英国ロンドン地区Canary Wharf パスト会長としてボランティア活動に積極的に励んでいる。全世界に広がるロータリークラブは自分にとって家族のような場所であり、世界どこを旅行していても自分を迎え入れてくれる特別な存在。身銭を切って貴重な時間を差し出して奉仕をしている士気の高い仲間たちと過ごす時間と経験、そこから得るものは大きい。

英語ができれば何とかなる_訪問した国は120か国以上

【文】黒田順子

Aun Communication のコメント:

 グローバルな環境では、自らの思いや考えは「言葉」にしないと伝わらない。しかし、ビジネスの場で発言する目的は「議論を強化する」ことで、ただ闇雲に発言すれば良いわけではない。むしろ、何が焦点でどのように議論が展開されているのか、話者のコメントをしっかり「聞くこと」で、自らの意見を調整でき、発言のタイミングを計りやすくなる。また、話し手はあなたが真摯に聞いてくれたと思い、次はあなたの意見を聞く態勢になりやすい。廣綱氏が長年にわたり、英国の日本人コミュニティだけでなく、ローカルのコミュニティでも信頼関係を築き、存在感を発揮してきたのは、良い「聞き役」として相手を尊重してきたからだと思う。

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